建築写真家の下村純一さんから新著をいただいた。
『銭湯からガウディまで……一眼レフカメラの建築観察日記』(クレオ、1800円)
下村さんとは国内だけであるが、ずいぶんいっしょに仕事をさせていただいた。本書の中にもいっしょに行った三田のなまこ壁の演説館や山口文象の黒部第二発電所なども取り上げられている。下村さんは写真家だが、文章も書く。取材後、ほどなくして写真と原稿を渡され、彼の着眼点に学ぶことが多かった。パリ、ブリュッセル、アムステルダム、松本、長崎、大阪、宇奈月……と、本書を読み進むうちに、読者は建築写真家の自問自答やつぶやきを聴きながら建築を見て回ることになる。たとえば、こんなふうである。下村さんは木村伊兵衛が言ったという「ライカで撮ると空気が写る」という言葉にこだわる。空気が写るとはどういうことか。その言葉は建築を撮る者としては捨てておけない言葉だからである。はたして空間というヴォイドは被写体になりうるのか。そうした自問自答といっしょに添えられているのが、100ミリの望遠で捕らえたラ・ロッシュ邸の吹き抜け空間である。本書に取り上げられた建築作品は33点、それぞれにファインダーを覗く下村さんの息づかいが聞こえてくる。それが、本書の大きな特徴になっている。